2017年8月23日水曜日

はじめて能《安達原》~夜の部

2017年8月22日(火) 19時30分~21時10分 観世能楽堂

仕舞《高砂》  角幸二郎
  《羽衣キリ》佐川勝貴
   地謡 小早川泰輝 清水義也 野村昌司 武田祥照

能の解説 山階彌右衛門
 すり足実演 武田祥照
 謡ってみよう!謡入門編《安達原》(糸車の謡) 

解説付ダイジェスト能
《安達原》里女/鬼女 武田宗典
   阿闍梨祐慶 大日方寛 同行山伏 御厨誠吾
   能力 野村太一郎
   藤田貴寛 田邊恭資 原岡一之 林雄一郎
   後見 武田友志 木月宣行 野村昌司
   地謡 坂口貴信 清水義也 高梨万里
      関根祥丸 井上裕之真 久田勘吉郎→武田祥照

仕舞《融》 山階彌右衛門
 地謡 坂口貴信 武田祥照


荒磯能を昼・夜二部式にしたような「はじめて能」。
親子ペアで行くとお得だけれど、さすがに夜の部はお子さんは少なくて、代わりに仕事帰りらしき現役世代が6割ほど。
比較的若くておしゃれな女性たちもちらほら(能ガールさん?)。
立地を生かし、仕事帰りにぶらっと気軽に立ち寄れるよう時間帯・価格帯もよく考えられている。



仕舞
佐川勝貴さんの舞を観るのははじめて。
謡い出しから引き込んでいく。
たっぷりした豊かで厚みのある謡。
舞もきれいで、細身の両腕には羽衣が風をはらんで浮遊していく、天使の羽根のような軽やかさがある。
美しい増女の面とあでやかな装束をつけた舞姿が自然と思い浮かぶ。
思いがけず、良い仕舞を拝見した。


解説
噂には聞いていたけれど、彌右衛門さん、お話が上手で面白い!
ご自身も心から楽しんで話していらっしゃるような。

いろいろ蘊蓄を交えながらお話しをされていて、たとえばすり足の解説では、「あいつは板についてきた」というのは、能のすり足から来ているとか、
「結婚式なんかで『人生の檜舞台に立つ』というのもこの能舞台に由来するのですが、おそらく今後も結婚の予定がないだろうという人もいらっしゃると思うので、せめて能舞台に立ってみては……?」(つまりはお稽古&発表会のおすすめ)などなど。

自虐ネタではなく、観客をネタにするのが彌右衛門さん流。
(他虐ネタって高度なテクニックだと思うのですが、それも彌右衛門さんの陽気なキャラのなせる業。)

「謡ってみよう!」のコーナーでも、枠桛輪を回しながら憂世の辛さを謡うところでは「私はいっつも元気いっぱい幸せですので、皆さんのように人生に疲れきった方々のほうが、このうらびれた感じが出やすいですよ~」みたいな(笑)。




能《安達原》
「解説付ダイジェスト能」ってなんだろうと思っていたら、こ、こういうことだったんだ!
ビックリ!! 面白くて、笑いをこらえるのに苦労しました。
演者の方々も真面目くさった顔でされているのだけれど、心の中では「プッ」と吹き出していたりして……?

まず、お調べが始まったあたりから彌右衛門さんがマイク片手に舞台に立ち、お調べの意味や、入場してくる囃子方を「これは笛、この人は小鼓……」と紹介していきます。

囃子方の皆さんはいつものごとく厳粛にしずしずと舞台に入ってくるので、彌右衛門さんのハイテンションなノリとの取り合わせがなんともコミカル。


やがてワキ・ワキツレが登場し、名乗りをしたあたりで、「ハイ、ここで、ストップ!」と、彌右衛門さんから待ったがかかり、演者一同、凍り付いたように静止。

マネキンのように動きを止めたワキ(大日方さん)の横に彌右衛門さん立ち、山伏の装束や道行の解説をしてゆくのですが、可笑しさと真面目さが入り混じった前衛的なパフォーマンスのよう。

こんな感じで、前場二カ所と中入りに解説が入り、後場はノーカット。
シテの宗典さんは品のあるきれいな鬼女で、中入り前に「(閨の中を)御覧じ候ふな」と何度も念を押すところにも、鬼気迫るものがあり、見応えがありました。


お囃子カルテットの早笛・イノリを聴くと、やっぱり能の囃子っていいなあと思う。
(この大小鼓の組み合わせはわりと好きなのです。)
田邊さんは以前から物腰が源次郎さんによく似ていらしたのですが、久しぶりに拝見すると、掛け声や仕草・姿勢、シテを射抜くように見つめる鋭い目つきまで、お師匠様にそっくり!
音色の響きも美しく心地よい。


そして印象に残ったのが、鬼女と山伏とのバトル。
宗典さんと大日方さんの長身細身どうしのバトルは、能的にどうこうというよりも、ヴィジュアル的に従来のシテ・ワキのバトルとは違っていて、このシューボックス型の縦長空間にしっくり馴染む。

そう思って舞台を見渡せば、囃子方も地謡も間狂言も、ほとんどの方が小顔でシュッとしている。
全体的に現代的というか。
時代や場所の空気を吸いながら能の雰囲気も観客も変化して、ひとつのヴァリエーションになっていくのだと、妙に感心した舞台でした。









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