2015年11月26日木曜日

狂言鑑賞会~《粟田口》、《神鳴》、語《重衝》、《文山立》

2015年11月25日(水)13~16時  國學院大学たまプラーザキャンパス1号館

狂言《粟田口》  シテ大名 山本東次郎 
          アド太郎冠者 山本則孝 アド新参の者 山本則重

狂言《神鳴》   シテ神鳴 山本秦太郎  アド医者 若松隆

語《重衡》      山本凜太郎

狂言《文山立》    シテ山賊・甲 山本則俊  アド山賊・乙 山本則秀 

お話&小舞《貝づくし》山本東次郎



狂言だけの会は初めてだったけど、もう、最高っ!
一気に、東次郎さんと山本家の皆さんのファンになってしまったほど。

内容も盛りだくさんで非常に充実していて、冷たい雨の日だったにもかかわらず、
帰るころにはあったかい寄せ鍋を食べた後のように、心はホッカホカ。


狂言《粟田口》
上演時間40分以上の曲で、大蔵流狂言のレパートリー200番の中でも
5本の指に入るくらい好きだと東次郎さんご自身がおっしゃっていた《粟田口》。
いやー、面白かった!

大名役の東次郎さんが、ふくら雀柄の黒地の素襖姿で登場。
このふくら雀の柄が、東次郎さんをキャラクター化したようなイメージで、なんとも愛嬌があって可愛い。
大名は、粟田口の道具比べがあるので、都で「粟田口」を求めてくるよう太郎冠者(山本則孝)に命じます。

例によって、粟田口が何なのか分からない太郎冠者は、都で自分こそが粟田口だと名乗る男(山本則重)にあっさりだまされ、男を連れて帰ります。

粟田口とは刀の銘のことだと8~9割方思っていた大名ですが、信頼していた太郎冠者に「粟田口とは人のこと」だと言われると、もしかするとそんなこともあるのかなと思ってしまいます。

(人間誰しも自分の知識が100%正しいという自信は持ちえない、そういう人間心理を巧みに突いた心理劇なのだと、番組最後の解説で東次郎さんがおっしゃっていました。)

そこで大名は、粟田口の特徴を記した説明書を読み上げ、男がほんとうに粟田口なのかを確認します。
大名「(粟田口は)身が古い」
すっぱ「自分は生まれてこの方湯風呂を使っていない」
大名「はばきもと黒かるべし」
すっぱ「つねに黒い脛巾(はばき)をはいておる」
大名「(粟田口には)必ず銘がある」
すっぱ「二人の姉にそれぞれ女子(姪)がいる」
大名「刃(は)が強きもの」
すっぱ「(自分の歯は)岩石でも噛み砕ける」
といった大名と男のやり取り、そして問答を取り持つ太郎冠者のせわしなさが可笑しくて、大爆笑。
名曲を名人や演じるとこんなに面白くなるのですねー。

そこで大名は最終確認のために、山の向こうに本物の粟田口を持つ者が住んでいるので、男の二人でそこへ行くことにする。
道中、名を呼ぶと気持ちよく応じる男に心を許した大名は、身を軽くしようと、
男に太刀・刀を預けますが、男はこれ幸いに太刀と刀をもって姿をくらまします。


大名は信頼した男にだまされたことに気づき、しばし呆然と立ち尽くす――。

やがて怒りがこみ上げて来て、「今の粟田口、どれへ行くぞ、捕えてくれ、やるまいぞ、やるまいぞ」と追いかけていきます。

気持ちが通い合ったと思った相手に裏切られたことを知った瞬間の衝撃、
身体がクラッとするような心の打撃の表現が東次郎さんならでは。

以前、《月見座頭》を拝見した時も思ったけれど、楽しいだけではなく、
人間の暗い影の部分をさりげなく見せるところが東次郎さんの魅力のひとつ。


狂言《神鳴》
雲間を踏み外して地上に落ち、腰を痛めた神鳴を、都落ちした藪医者が助けるお話。

若松さん扮する藪医者のおもしろ真面目な雰囲気がいい味出してる!
好きだなー、こういうキャラ。

薬を持ち合わせてない医師は、代わりに巨大な鍼を、神鳴の腰に打ち込みます。
神鳴の手足が痙攣してもの凄~く痛そうなのですが、その鍼をスッと抜く瞬間が何とも気持ちよさそう……。
痛さと、その反動としての快感が手に取るように伝わってくる。

最後に神鳴は治療代として、日照りも干ばつもない状態を800年継続させることを約束し、小舞を舞います(ここで地謡が4人登場)。
この小舞が誠にアクロバティックで、泰太郎さんは華麗に飛び返り。
(能楽堂と違って特設舞台なので、床のクッション性が低く、着地の衝撃が強そう=痛そう。)

治療代の代わりに人々の幸せを願うなんて、藪医者さん、ええ人やってんなー。



語《重衝》
1980年代に浅見真州師によって500年ぶりに《重衝》が復曲された際、間狂言の詞章がなかったので松岡心平氏が新しく書いたものを、狂言師が語りやすいように東次郎さんが
書き直したのが、この《重衝》の語り部分。

松明の火が強風に煽られて燃え移り、東大寺の大伽藍を焼失させた場面など、聞きごたえがあった。



狂言《文山立》
2人の山賊が喧嘩を始める時の飛び返りのキレ、同吟の美しさ、息のあった間合い。
最後は仲直りをして、楽しく歌を歌いながら帰っていく。

こんなふうに争うことの無意味さを誰もが実感できればいいのだけれど。

強さを誇示し合うのではなく、情けなさや弱さを認め合うって、
ほんとうは大切なことなのではないかなーと思わせる一番でした。



狂言鑑賞会~お話&小舞《貝づくし》山本東次郎につづく




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