2014年11月7日金曜日

満次郎の会「盛衰無常」夜の部・前半の感想

まずは、満次郎さんのご挨拶。


「ご挨拶」といっても、仕舞から狂言語、一調、能に至るまで、
一つ一つのあらすじや醍醐味などを面白く丁寧に解説してくださるので、
この時点で開演から30分以上が経過。
                                                                     
最終的に、夜の部は予定りより40分以上も超過して終演となったため、
遠方からいらした方の中には演能の途中で帰る人もちらほらいらっしゃたほど。
                                         
もしかすると、「友枝会」後半のかけもち組の中に到着の遅れた能楽師さん
(粟谷さんとか元伯さんとか)がいらっしゃって、満次郎さんが時間稼ぎされていたのかなー。

この日演じられる《鞍馬天狗》の「天狗揃」の小書は宝生流にしかないもので、
30年ぶりに上演されるとのこと。
             
総勢40人が舞台に上がる絢爛豪華なお能なのです。


そんなこんなで、満次郎さんの楽しくて長ーい「ご挨拶」のあと、ようやく仕舞のはじまり。


《祇王》は観世流にしかない曲で、以前に宝生流で能は拝見したことがあるけれど、
仕舞ははじめて。
          
女の栄枯盛衰の物語には、平安末期の白拍子にかぎらず、
女として生まれた者ならば多少なりとも経験する普遍的な感情が盛り込まれている。
                                         
祇王に代わって清盛の寵を得た仏御前も、やがて世の無常をはかなんで、
祇王たちの後を追うように落飾する……。
                                       
二人の女流能楽師が相舞による優雅な序ノ舞。

和久さん、満次郎さん、山内崇生さん、川瀬隆士さんの地謡も哀調を帯びて、
妍と芸を競う白拍子たちの哀しくも虚しい世界へと、観客を引き込んでいく。



善竹十郎さんの《那須語》
大蔵流では、《那須之語》ではなく《那須語》というらしく、

型も扇の扱い・所作など、和泉流とはだいぶちがっていた。
                                                                   
「与一、鏑を取ってつがひ、よっぴいてひょうど放つ」の、矢を射るしぐさに
武士の美学が集約されていて、ベルニーニの彫刻を彷彿とさせる。
                           
射ぬかれた扇がはらはらと落ちる場面の描写も見事。

 

広忠さんと粟谷明夫さんと一調《八島》。
馬上一騎打ちといった迫力!

                              
大鼓の、片膝を立てて打つ仕草もすっごく男っぽい。
(近くの席の女性が「カ、カッコイイッ!!」と叫んでいた。
……叫ぶのは恥ずかしいと思うけれど、気持は分からないでもない)。

でも、大鼓って、囃子の打楽器の中では、打音に一番変化を付けにくいお道具だと思う。
以前、忠雄さんの一調を拝聴して、大鼓でこれだけ繊細で豊かな音色が出せるのだと

感動したことがあるけれど、
広忠さんはまだどうしても(気迫は満点だけれど)一本調子になってしまう気がする。


前半の部の最後は、武田孝史師と和英宗家による仕舞

能の《二人静》は、宝生流では廃曲になってしまったそうで、

仕舞や舞囃子の形でしか演じられないとのこと。
                                        
いかにも武家の能といった雰囲気の端正で品格ある芸風をもつ武田孝史師は、
私にとって「ミスター宝生」ともいえる存在だ。
                            
この日の武田師の《二人静》は、しっとりと淑やかで、じつに優美。
指の先の先まで手弱女のようなやわらかさ。
ますますファンになってしまった。
この方の鬘物をぜひ拝見したい。

                                       
宗家の仕舞《船弁慶》もキレがあって、いつまでも見ていたい気がした。

ただ、最後の扇を取り上げて立ち上がる時、もう少し間をもたせて、

ここにも序破急をつけたほうが、余韻を漂わせることができるのではと少し残念に思った。(たぶん、この方の本来の身体のリズムが少し速いのだろう。油断すると、自分の生まれ持った俊敏さや気の短いところが出てしまうようだ。)


20分の休憩をはさんで、いよいよ《鞍馬天狗・天狗揃》。
休憩の間もロビーには、公募で入選した大癋見の面が展示されていた。
休憩終了後にいそいで回収されて、天狗たちがそれぞれ掛けるのだそう。

(後半に続く)



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